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健康と食べ物 -第8回目-
 
天明の大飢饉と“二足の草鞋族”

老山勝
業界紙記者、食品専門誌編集人を経て、現在フリー


 天明(1781~88)の大飢饉の直前、商品経済の発達で大名たちが贅沢な生活と幕府側近の機嫌取りに浪費、江戸や上方の大商人に借金をした結果、その地元では年貢取り立てに容赦ない悪代官がのさばり、江戸に食材を供給する北関東あたりの庶民は空腹を凌ぐだけのコンニャクで命を繋いだらしい。そこで起きたのが、浅間山の大噴火(1783)に始まる東北地方の冷害だった。人心は荒廃し、美辞麗句を並び立てながらお上のやることを褒め称えては大衆に服従を強制し、自分たちは博打に精出す無法者が幅を利かしていた。十手片手の博打打ちのことを「“二足の草鞋(わらじ)”を履いた」と形容、年貢取立てや逃散防止などでお上に協力しつつ、幕府側近の真似をして私腹を肥やしていた。浪曲や時代劇でおなじみの悪役は、庶民芸能に語り継がれてきた怨念の残像である。
 当時は生産した米で上納する税金「年貢」が払えなくて、村人が土地を捨てていっせいに逃げ出す「逃散」が跡を絶たなかった。それでも上杉鷹山の米沢藩のように、領民のために身を削った藩と、年貢取立てのみに腐心した藩では、とくに惨状をきたした同じ北関東・東北であっても庶民の生活に雲泥の差があった。
 現代の日本社会でも、飽食の限りを尽くしながら、その足元には食糧の供給不安が身近に迫っている。先進国中で最低の食料自給率の問題と関連して小泉政権はその末期に“平成の農政改革”と称する政策を打ち出したが、これは農業補助金の削減という“年貢取立て”の裏技にほかならない。小規模な農家への補助をやめて耕作を放棄させた農地を多国籍企業に受け渡す“棄農政策”が始まっている。
 “消える村々”は現代の「逃散」であり、“限界集落”はその寸前の姿と言えよう。
 いまや現代日本の夜盗(よとう)や野盗(やとう)(注・誤植ではありません!)による政治は、いかに金儲けに都合のよい社会にするかが目標になっているらしい。一族の利権を代表するだけの世襲政治家には自己利益を最大化することしか眼中にない。健康増進法や食育基本法を成立させるために、あたかも国民の健康を気づかっているかのような言説が飛び交ったが、食糧の供給不安こそが究極の健康問題であることさえ理解できていない。
 とくに食育基本法は、庶民の健康や食生活にけちをつけて自己利益をはかる。「食育」推進のお役目に関わる利権政治家、資格教育業者、マスコミ屋など“二足の草鞋族”には都合のよい法律である。補助金カットがめだつ農水省予算でも、「食育」関連は、この法律ができたことで予算は数倍にもふえ、その啓発・普及を名目に催し物が目白押しで、マスコミ文化人が美辞麗句を並べ立ててはこの予算(血税)に群がっている。
 現代日本の“二足の草鞋族”の頭目格として忘れてならないのは、何と言ってもゼロ金利で庶民の預金金利を大銀行の利益に移し替えた挙句、自分は無法者にカネを預けて利殖を図った日銀総裁がいたことである。
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